きらきらひかる
映画版を学生の時に試写会かなんかで見て、ちょうどその頃、アナザーカントリーだのモーリスだのがあったころなので、安易にゲイ男性が女性に優しいというご都合な映画だなあという印象をもったまま、現在に至っておりました。
文庫本を読む機会を得たので、読んでみたところたしかに今でもゲイ男性が女性に優しいという幻想はぬぐえないけれど、この範囲なら優しいゲイ男性もたくさんいるのではと思えて、すっきりと読み終える。
映画を観ていた時はアル中の笑子のことを特に気にもとめてなかったのですが、今回ははっきりと「病気」ということが分かって、怖かった。たんたんとおかしい人という描写がよくできていて、こんな人いる、確かにいる。
おかしい人だなと思って話すと、存外まともで、全然おかしくないやんと思って一緒にいるんだけど、少しずつまた、あれ?と思うようなそんな人。そのうち自分か相手かどっちがおかしいのか分からなくなるという、そんなかんじを思いださされました。
そんな笑子と偽装結婚したホモの睦月は勤務医。よくできた人に見えるけど、読み進んでいくとおかしいのは睦月のほうなのかと、思うようになる*1。
睦月はベランダから月やら星やら眺めるのが好きで、途中、プレゼントにもらった天体望遠鏡でさらに熱心に眺めることになる。笑子は壁にかけてある絵画のおじさんに話しかけたり、歌をうたったりする。
睦月は遠くを見過ぎだし、笑子は近くを見過ぎ。ちょうどいい目線とかバランスのいい距離ってむずかしいよなと。遠くを見て全体のバランスを見ることは生きていく上で必要だし、近くのモノに愛情をそそいだりこだわったりすることも大事だと思う。思うけど、それが全く重ならなかったら、しんどいよね。
好きな人と一緒にいることはもちろんうれしいことなんだけど、一緒にいるだけじゃなくて、気持ちが絡み合うとか、話してて手応えがあるとかがないとしんどさが増すなあと、ふとそんなことを考えました。
- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1994/05/30
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*1:誰がおかしいのかを考える小説ではありません。念のため。